vol.02

Vol.02

ミュージシャン渡井 隆行 さん

「孤独を乗り越えられたのは周りの大人の愛と音楽だった」

『VOXRAY(ヴォクスレイ)』は男性4人のヴォーカルグループ。ライブハウスでの活動を始め、テレビやラジオ出演、プロ野球公式戦での国歌斉唱を3年連続で務めるなど、様々なシーンで活躍する注目のアーティストです。メンバーの一人である、渡井隆行さんは児童養護施設出身。その経験から、歌を通して子ども達に生きる希望や喜びを伝えたいと、全国各地の施設に訪問し、ライブ活動も行っています。今でこそ、多くのファンや仲間、家族に囲まれ、幸せに暮らす渡井さんですが、少年時代は寂しさのあまり、やんちゃばかりしていたと言います。「小さいころはさんざん悪いこともしましたね。家に居たくなくて、フラフラしてました。でも、近所のラーメン屋のご家族やコンビニの店員さんが、僕が腹を空かせていたりすると助けてくれて。親以外のたくさんの大人たちから愛情をもらっていた気がします」小学3年で施設に入り、高校卒業まで過ごすことに。成長するにつれ、少しずつ音楽に目覚め、学校では吹奏楽部でトランペットを演奏したり、部屋では好きなミスチルの歌を歌ってストレスを発散したりと、音楽が彼の生活に欠かせない大切なモノとなっていきます。高校卒業後も音楽の道に進もうと、バンド活動をしながら、カラオケ店などのアルバイトに励む日々。途中、夢をあきらめそうになりながらも、また一念発起し、アカペラのヴォーカルグループをイベントに派遣する事務所に歌手として応募。オーディションに合格し、プロとして人前で歌う機会が次第に増えていきます。「たまたま同じ事務所の男性のメンバーと飲む機会があったんです。皆、歌が好きだから、ゴスペラーズの曲を歌おうかと。そしたら気持ちいいぐらいに音が合った。『これいいじゃん! 皆でストリートやろうよ』って盛り上がって。それが『VOXRAY』が生まれたきっかけなんです」。

歌の世界は好きだけでは厳しい 食べていくのも曲作りも一苦労

それからストリートライブをしながら、本格的にデビューを目指そうと音楽機材を購入し、CDを自主制作。その活動ぶりがメディアやイベント主催者の目に留まり、徐々に歌うチャンスに恵まれるように。「歌の技術ももちろんですが、それ以上に人脈が大事。チャンスは人が運んでくるんです。それをつかむには人前にどんどん出ること。一歩前に出なきゃダメですね」。グループを結成して6年。ここ数年でやっとこの仕事一本で食べていけるようになったそう。好きなだけではやっていけない、厳しい世界だと言います。「甘いもんじゃないですね。食べていくのは大変だし、曲を作るのも一苦労。この世界を目指すなら覚悟は必要かもしれません」。とはいえ、歌うことの喜びや醍醐味は計り知れないものがあります。ライブでの躍動感、ファンからの熱い声援、まさに生きている感覚そのものを味わえるのが、歌手の仕事の魅力です。「ファンの方から『新曲待ってます』とか、施設の子どもたちに『生きる力をもらった』とかそんな声を聴くと、もう感動します。僕たちが与えているようで、実は与えられているのかも」。歌を通しての素晴らしい出会いも喜びの一つです。「先日、ライブでゴスペラーズさんの前で歌う機会があったんです。そしたら『4人のバランスが取れていてよかったよ!』ってお褒めの言葉をいただいて。また頑張ってやっていこう!って思えましたね」少年時代から憧れていた世界が、今まさに目の前にあります。あきらめずに前に進めば、いつか夢は現実になる――。そんな熱い思いが、彼らが作る曲から伝わってきます。

( 記事提供/NPO法人ブリッジフォースマイル発行「Smile!」先輩たちの今  )